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化学ポテンシャル図とは何か?
このプログラムは一般化された化学ポテンシャル図を構築するものです。
- 化学ポテンシャル図とは何か?
適当な熱力学的示強変数を座標変数に用いて、熱力学的情報特に相安定性を図上に示すものです。
典型的には、選択した化学種の化学ポテンシャルあるいは対数活量を座標に選びます。
CHDで作図できる例を以下に示す。
- 一般化とは何か?
- 本プログラムでは、化学ポテンシャル図を一般化された手法で構築しています。
従来型の化学ポテンシャル図構築法・利用法と比較しながら、一般化の特徴をしめします。
- 従来型の化学ポテンシャル図では
- 特定元素の選定:
特定の元素を一つ選択し、その元素が化学的環境下に置かれた時にどのような化学形態を安定的にとるのかを示します。例えば、鉄系のプールベ線図では、pHと電位というFe-O-H-e-系に特有な環境変数を選択することによって、電気化学的環境下での鉄のそれぞれの化学種の安定性を図示します。高温化学で用いられる化学ポテンシャル図では、同じように、log p(O2) vs. log p(S2) プロットをさくせいすれば、Fe-S-O系の鉄が化学的環境の中でどのようあ安定性を示すかを図示することできる。
- 制御変数としての座標変数:
暗黙の了解事項として、環境変数として制御できる変数を用いることが設定されます。
- 境界線の意味:
一つの指定した元素の化学形態が環境と反応することによって変化する境界が線で表されることになります。この線は、一つの化学反応式で代表させることができます。
- 作図原理としての化学反応式:
作図をするためには、化学反応式を多く書き下し、どの反応がより有利に進行するかを見極めていくことになります。プールベ線図を構築するに必要は、水溶液化学などが関与する化学反応式の平衡関係を、pH(あるいはH+イオン)と電位(あるいは電荷)で記述することが、ごく普通に行われています。
- レドックス元素:
一つの指定した元素の酸化還元反応、酸・塩基反応の特徴を俯瞰的に見通すには、便利な図であると言えましょう。このため、選定された元素はレドックス元素と呼ばれたりします。
- 多元系への適用に限界:
従来型の作図法では、合金や複合酸化物の関与する平衡関係を図示することが困難になるという欠点もあります。
- 物質移動との関連:
環境変数の変化に伴う物質移動は早いと仮定しているので、結果的に反応を重点的に考慮していることになります。例えば、FeSがFeOに変化する場合に、どのように酸素と硫黄が拡散移動するかは考慮されていないことになります。
- 一般化では
- 図の構築法としては特定の元素を選択しません。N次元の化学ポテンシャル空間の中での化合物間の熱力学的関係を前提にしているので、金属とか非金属などの区別はなく、元素の化学ポテンシャルの他に、温度、圧力も同じアルゴリズムの中で取り扱えます。また、電荷も元素と同じ取り扱いをすることができます。従来法と比較したと時の特徴として次のことを指摘できます。
- 元素の取り扱いに制限を設けない。このため、合金あるいは複合酸化物などの取り扱いが可能となる。
- 図の軸変数を一般的に選択する。環境変数に対応する化学ポテンシャルばかりでなく、より一般的な元素の化学ポテンシャルを取り扱うことが可能です。このため、界面接合部分での元素の拡散挙動を把握するのに重要となる拡散ポテンシャル(二つの元素化学ポテンシャルの差)を採用することも可能です。
- プールベ線図と高温化学線図とを同じアルゴリズムで構築できるので、プールベ線図で表されている相関係を高温化学で馴染みの深い化学ポテンシャル図として構築し直すこともできるので、水溶液系での平衡関係を、水溶液化学種がない場合、あるいは水分がないドライな場合の平衡関係と比較検討することができる。
- 温度と圧力を軸変数に選択することができる。エリンガム線図、アレニウスプロットなど高温化学で馴染みのふかい図も構築可能です。
- 3次元の化学ポテンシャル図を構築するのに、アルゴリズム上の制約はなく、計算時間も多くは必要としないので、従来法では構築できなかった複雑な図が構築できるようになりました。ただし、3次元図では容易に全体像を把握することができないので、新たな図の探索法・利用法が必要となります。
- タッチモード:
図上の一点は多次元化学ポテンシャル空間中の一点に対応するので、その点での熱力学情報を提示する。
- 断面図:
3次元であれば中がみえないので、任意の化学ポテンシャル値で断面を作成し、その断面上の相関係を別の図として表示する。
- プロファイル線図:
平面図の断面であれば、その線上の熱力学情報をプロットする。分圧、活量の変化が可視化される。
- 透明化:
3次元図であれば、化合物毎に透明化する手段を用意し、奥深くまで可視化するとともに、見えている面上の熱力学情報をタッチモードで調べる。
- 走査:
断面を指定する値を走査することによって、断面図、プロファイル線図がどのように変化するかを検討できる。
- 回転:
3次元図を回転することができる。
- 従来法で構築されてきた図との整合性を図ることが大事であると考え、次のような手法を取り入れた。
- 特定元素の選択:
3次元図では、個々の化合物の可視化、透明化の指定の他に、一括してある元素を含む化合物を透明化することができるようにした。特にプールベ線図の多元化で行われていたものを再現するようにした。例えば、Fe-S-O-H-e-系では、Feを特定元素に選び、鉄を含まない化合物を透明化すると、従来の多元系のプールベ線図が構築できる。透明化を解除すれば、通常の多元系プールベ線図となる。
- 新たな展開も必要とされます。
- 拡散と反応:
拡散を支配する元素化学ポテンシャルの差は拡散ポテンシャルと呼ばれているが、固固界面では拡散と反応が同時に進行する。このような現象の解明にも一般化された化学ポテンシャル図は適用可能です。反応拡散経路を化学ポテンシャル上にプロットし、その経路上での各元素の活量の変化などを提示することも必要となりました。
- 状態図計算・化学平衡計算との連携
一般化された化学ポテンシャル図は通常の状態図と比較検討すべき情報をもっています。また、多元系の平衡計算法としては、ギブズエネルギー最小法を採用している化学平衡計算法(MALTでは、gemに対応)とも良い対応をしめします。このため、同じ熱力学データを用いて、化学ポテンシャル図の構築と化学平衡計算を行えるということは、熱力学の適用性を大きく向上させるものです。
一般化された化学ポテンシャル図を更に理解するには、次を参照して下さい
総説・解説
- H. Yokokawa, Generalized Chemical Potential Diagram and Its Application to Chemical Reactions between Dissimilar Materials,J. Phase Equilibria 20(3), 258-287(1999).
- H. Yokokawa, Understanding Materials Compatibility,Annual Review of Materials Research, 33, 581-610 (2003).
- 横川晴美,一般化された化学ポテンシャル図の基礎から応用まで,
電気化学ポテンシャル図
- H. Yokokawa, N. Sakai, T. Kawada, M. Dokiya, "Generalized Electrochemical Potential Diagrams for Complex Aqueous (M-X-H-O-e-) Systems," J. Electrochem. Soc. 137, 388-398 (1990).
- H. Yokokawa, N. Sakai, T. Kawada, and M. Dokiya, "Thermodynamic Stability of SrCeO3 in Aqueous Solutions at 298 K and in a High-Temperature Reductive Atmosphere," Denki Kagaku 58, 561 -563(1990).
- , 横川 晴美, 酒井 夏子, 川田 達也, 土器屋 正之, 多元系電気化学ポテンシャル線図の構築と LaCoO3 系複合酸化物の水溶液中での安定性への応用、電気化学および工業物理化学、58(4), 341-348 (1990).
化学ポテンシャル図
- H. Yokokawa, T. Kawada and M. Dokiya, "Construction of Chemical Potential Diagrams for Metal-Metal-Nonmetal Systems: Applications to the Decomposition of Double Oxides," J. Am. Ceram. Soc. 72, 2104 (1989)
- H. Yokokawa, N. Sakai, T. Kawada, and M. Dokiya, "Chemical Potential Diagrams for Rare Earth-Transition Metal-Oxygen Systems: I. Ln-V-O and Ln-Mn-O Systems," J. Am. Ceram. Soc. 73, 649-658 (1990).
- H. Yokokawa, N. Sakai, T. Kawada, and M. Dokiya, "Thermodynamic analysis on interface between perovskite and YSZ electrolyte," Solid State Ionics 40/41, 398-401 (1990).
- H. Yokokawa, N. Sakai, T. Kawada and M. Dokiya, "Thermodynamic Analysis of Reaction Profiles between LaMO3(M = Ni, Co, Mn) and ZrO2," J. Electrochem. Soc. 138, 2719-2727(1991).
- H. Yokokawa, N. Sakai, K. Yamaji, T. Horita, M. Ishikawa, “Thermodynamic Determining Factors of the Positive Electrode Potential of Lithium Batteries,” Solid State Ionics.113-115,1-9(1998).
- Haruo Kishimoto, Teruhisa Horita, Katsuhiko Yamaji, Manuel E. Brito, Yue-ping Xiong, and Harumi Yokokawa, “Sulfur Poisoning on SOFC Ni Anodes: Thermodynamic Analyses within Local Equilibrium Anode Reaction Model,” J. Electrochem. Soc., 157(6), B802-B813 (2010).
- Harumi Yokokawa, “Thermodynamic stability of sulfide electrolyte / oxide electrode interface in solid-state lithium batteries,” Solid State Ionics 285, 126-135(2016).
- 金属-酸素-硫黄系の一般的化学ポテンシャル図
横川晴美, 川田達也, 土器屋正之 - 電気化学および工業物理化学, 56, 751-756 (1988)
- 熱力学データベースの応用: 化学ポテンシャル図を中心にして
横川晴美 - 新熱測定の進歩, 1, 37-50 (1992)
アルゴリズム
- H. Yokokawa, K. Yamaji, T. Horita, N. Sakai, “A Convex Polyhedron Approach of Constructing Chemical Potential Diagrams for Multi Component Systems,” CALPHAD, 24(4), 435 - 448 (2000).