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作図例: DFT計算結果の可視化 (Li-Fe-P-O 系)
(1) 材料化学でのDFT計算の利用
近年、材料科学では対象とする物質のエネルギー論的性質を第一原理(DFT)計算で求めることの関心がふえてきている。他方で、高温化学熱力学の分野では、材料科学用の熱量計の数は増えてはいない。従って、このような計算結果を合理的に利用することが極めて重要となっている。ここでは、試みに、DFT計算結果を直接用いて、化学ポア点シャル図を構築してみる。関連図ではMALTの格納データを用いて類似の化学ポテンシャル図を構築する。
(2)DFT 結果の *.abs ファイルへの変換
文献
- Ong, SP., Wang, L., Kang, B., Ceder, G., Li-Fe-P-O2 Phase Diagram from First Princeple Calculations, Chem. Mater. 20, 1798-1807, 2008.
doi:10.1149/1.3362896
- DFT 結果は 0 K での内部エネルギーをそれぞれの物質に対して与えるので、これを *.abs ファイルに変換する。このファイルはいくつかの平面からなる図を構築するもので、この平面は以下の式で表される。
ここに x, y, z は考慮している空間の次元変数で、a, b, c, は線形式の係数であり、d は定数である。係数は平面の勾配を表し、定数は原点からの距離をあらわす。熱力学空間では、これらは、化学量論数とエネルギー値に」対応する。
- DFT 計算結果
例として、蒸気文献に与えられているデータを用いる。
lifepo.abs ファイルの内容 はこのページの最後に与えられている。ファイル自身は次のフォルダー: users > DATA に他の *.abs ファイルの例とともに格納されている。
(3) DFT値の可視化
- 図
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記述
作図詳細
データソースファイル
図 1
図 2
図 3
図 3a
(1) Li-Fe-P-O 系の3次元化学ポテンシャル図
_1.jpg)
図 1 表示されている座標として Fe P Oを使用した図:比較 作図例9b図1a
- Fe-P-O 系に対応する3次元図。
FeとPとOから構成される化合物が認められる。
- 文献の表1には P4O18 がリストされている。図の右側に安定相として現れるが 何かのミスタイプかミスプリントであろう。以後のこの相は無視する。
- Fe-O 系で、FeO が安定相として現れるが、
この相は高温でのみ安定として認識されている。
- Fe-P-O 系では多くの3元系化合物が現れ、化学ポテンシャル図上の
特徴として、同じ(鉄の)価数をもつ化合物は平行に現れるという傾向を示す。
- Fe2O3-P2O5 系列では
46 Fe(PO3)3,
41 FePO4 および
44 Fe4(P2O7)3 が現れる。
- FeO-P2O5 系列では
47 FeP4O11,
45 Fe2P4O12,
40 Fe2PO7,
38 Fe3(PO4)2 および
36 Fe4(PO4)2O が安定相として現れる。
- 二つの系列の間で、いくつかの混合原子価の化合物が現れる。これらは、
43 Fe3(P2O7)2 と
39 Fe7(PO4)6 である。
(2)Li-Fe-P-O 系の3次元化学ポテンシャル図
_2.jpg)
図 2 座標としてLi, Fe, Oを持つ図: 比較 9b図1b
- Li-Fe-O 系には、三つの3元化合物が安定相として現れる。
- Fe2O3-P2O5 系では、
30 Li5FeO4 と
29 LiFeO2 が現れ、更に
28 Li3Fe5O8 が 29 LiFeO2 と 7 Fe2O3 の間に現れる。
- 索引には、安定相がリストアップされている。
安定相として表示されている4元化合物は
48 LiFePO4 (c),
49 Li3Fe2(PO4)3 (c), と
50 LiFeP2O7 (c) である。
しかしながら
51 LiFeP3O9 (c) と
52 Li9Fe3(P2O7)3(PO4)2 (c) は現れていない。
- 他のいくつかの相が不安定で現れていない。
それらは
12 FeP (c), 13 FeP2 (c),
19 P4O7 (c), 20 P4O6 (c),
22 LiP5 (c),
26 LiFeP (c), 27 LiFe5O8 (c),
34 Fe9(PO4)O8 (c), 35 Fe3(PO4)O3 (c),
37 Fe2PO4O (c),
42 Fe7(P2O7)4 (c),
(3) Li-Fe-P-O 系の3次元化学ポテンシャル図

図 3a 座標軸 U(O2)、U(Li)、{U(P)-U(Fe)}を持つ図: 比較
9b図2
- 座標軸として U(O2) U(Li) および U(P)-U(Fe) が採用されている。
このプロットでは、Li-P-O 系の相平衡が正面に現れ、
Li-Fe-O 系の相平衡が後方に位置する。
- Li2O-P2O5 系列では、三つの複合酸化物が安定ある。
それらは
31 Li3PO4,
32 Li4P2O7 と
33 LiPO3.
- Li-P 系列では,
21 LiP7, 23 LiP, 24 Li3P7, 25 Li3P が安定である。

図 3b 座標軸 U(O2)、U(Li)、{U(P)-U(Fe)}を持つ図:拡大版
- Li-Fe リン酸塩と他の相との間の相平衡を見るには、
いくつかの相を透明にする。その化合物は
4 Li, 5 Li2O, 6 Li2O2,
31 Li3PO4, 32 Li4P2O7, 33LiPO3.
- 三つの4元化合物が安定である。
48 LiFePO4, 49 Li3Fe2(PO4)3 と 50 LiFeP2O7.
- 説明
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図
作図詳細
データソースファイル
- 熱化学的ネットワーク整合性に対する要求
- DFT結果が与えられている化合物は48ある。
他方で 38化合物が図中では安定な化合物として示されている。
- 5つの4元化合物の内、三化合物が安定である。
- この原因の一つは、観測されている相平衡を再現するには、非常に精密なデータが必要である。 与えられた組成で、安定な相として存在するには非常に狭い範囲のエネルギーしか許されない。
化合物の構成元素数がふえるに従って、その範囲は更に狭くなってくる。
データとしては正確(accurate)であると同時に精確(precise)でなければならない。
- 電極反応に関連した相平衡
残念ながら、電極関連物質間の特徴をグラフからは読み取ることができない。作図例9bと比較してほしい。
- 作図詳細
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図
説明
データソースファイル
- MALTの環境から CHD を起動する。
- 該当するフォルダーに移動する。
MALTの起動したディレクトリーにいるのであれば、
..\users\Data
が、lifepo.abs ファイルが存在するフォルダーとなる。
- 第4のカテゴリーである "test data" を選択
- "lifepo.abs" を選択して OK ボタンを押す。
- ファイルから読み込んだデータを確認する
表 lifepo.abs に対する平面リスト

- 構築手続きに含まれる化合物を選択
- 再選択ボタンをクリック
- 化合物 O2(g) をクリックして外す。
- 作図条件の設定(構築条件)を選択
- *.abs ファイルに対しては、固定の指定と図の選定ページのみ現れる。次元変数の指定ページは入力する必要がないので現れない。
- 図の選定ページ
- 座標を D:O, D:P, D:Fe, D:Li から
D:O, D:Fe, D:Li, and D:P に変更
これは最初の焦点を Li-Fe-O 系にあてるためである。
- 実行
- 図の表示範囲の変更
- 座標の変更
- 図の選択ページ
- 座標を次元変数から化合物型に変更する。
これは、座標の一つを二つの次元変数の差として用いたいため。
(4) データソースファイル
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図
説明
作図詳細
lifepo.abs ファイルのソーステキスト
- 第1行は、空間の次元数を与える。今の場合、4である。それぞれの次元の名前を与えることができる。
- 2合目から13行までは、4次元の基本的な情報を化合物情報と同じ様式で与えている。
- 各化合物の第1行目は化合物の名前である。
- 各化合物の第2行目は4次元に対する化学量論数である。
- 各化合物の第3行目はDFT計算結果のエネルギー値が eV の単位で与えられている。.
ファイル:lifepo.abs
4, O, P, Fe, Li
O2 (gs)
2, 0, 0, 0,
0
P (cs)
0, 1, 0, 0,
0
Fe (cs)
0, 0, 1, 0,
0
Li (cs)
0, 0, 0, 1,
0
Li2O (c)
1, 0, 0, 2,
-6.2
Li2O2 (c)
2, 0, 0, 2,
-7.04
FeO (c)
1, 0, 1, 0,
-4.095
Fe2O3 (c)
3, 0, 2, 0,
-11.25
Fe3O4 (c)
4, 0, 3, 0,
-15.682
Fe3P (c)
0, 1, 3, 0,
-1.114
Fe2P (c)
0, 1, 2, 0,
-0.876
FeP (c)
0, 1, 1, 0,
-0.339
FeP2 (c)
0, 2, 1, 0,
-0.601
FeP4 (c)
0, 4, 1, 0,
-1.265
P4O18 (c)
18, 4, 0, 0,
-32.042
P2O5 (c)
5, 2, 0, 0,
-17.343
P4O9 (c)
9, 4, 0, 0,
-31.265
(P4O6)O2 (c)
8, 4, 0, 0,
-27.792
P4O7 (c)
7, 4, 0, 0,
-24.028
P4O6 (c)
6, 4, 0, 0,
-20.173
LiP7 (c)
0, 7, 0, 1,
-2.261
LiP5 (c)
0, 5, 0, 1,
-1.873
LiP (c)
0, 1, 0, 1,
-1.193
Li3P7 (c)
0, 7, 0, 3,
-4.619
Li3P (c)
0, 1, 0, 3,
-2.944
LiFeP (c)
0, 1, 1, 1,
-1.238
LiFe5O8 (c)
8, 0, 5, 1,
-30.65
Li3Fe5O8 (c)
8, 0, 5, 3,
-35.668
LiFeO2 (c)
2, 0, 1, 1,
-9.156
Li5FeO4 (c)
4, 0, 1, 5,
-21.883
Li3PO4 (c)
4, 1, 0, 3,
-22.189
Li4P2O7 (c)
7, 2, 0, 4,
-36.022
LiPO3 (c)
3, 1, 0, 1,
-13.685
Fe9(PO4)O8 (c)
12, 1, 9, 0,
-47.628
Fe3(PO4)O3 (c)
7, 1, 3, 0,
-26.078
Fe4(PO4)2O (c)
9, 2, 4, 0,
-38.36
Fe2PO4O (c)
5, 1, 2, 0,
-20.143
Fe3(PO4)2 (c)
8, 2, 3, 0,
-34.187
Fe7(PO4)6 (c)
24, 6, 7, 0,
-95.984
Fe2P2O7 (c)
7, 2, 2, 0,
-29.097
FePO4 (c)
4, 1, 1, 0,
-15.309
Fe7(P2O7)4 (c)
28, 8, 7, 0,
-113.022
Fe3(P2O7)2 (c)
14, 4, 3, 0,
-55.034
Fe4(P2O7)3 (c)
21, 6, 4, 0,
-80.173
Fe2P4O12 (c)
12, 4, 2, 0,
-47.801
Fe(PO3)3 (c)
9, 3, 1, 0,
-33.953
FeP4O11 (c)
11, 4, 1, 0,
-41.533
LiFePO4 (c)
4, 1, 1, 1,
-18.853
Li3Fe2(PO4)3 (c)
12, 3, 2, 3,
-53.192
LiFeP2O7 (c)
7, 2, 1, 1,
-29.376
LiFeP3O9 (c)
9, 3, 1, 1,
-37.523
Li9Fe3(P2O7)3(PO4)2 (c)
29, 8, 3, 9,
-132.471